いつかカミングアウトが必要なくなる日のために

OUT IN JAPAN SETOUCHI(※1)に参加したモデルさんたちに、
きっかけなどを伺いました。
自分だけでは、なかなかできなかったことや
自分らしくいられる秘訣などをご紹介します。

誰もが自分に問いたくなるー自分らしいってなんだろう?―、
色々な意見を知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。



聞き手:岡 薫(アライ)

鈴木 智美(すずき ともみ)さん (左)(撮影当時40歳)
バイセクシュアル
福繁 幸子(ふくしげ さちこ)さん (右)(撮影当時39歳)
レズビアン



「セクシュアリティは、カミングアウトを強要するものでもないし、隠さなきゃいけないものでもないと思う」

智美さんは、迷いがなくてストレート。竹を割ったような、スカッとする言葉がポンポンと飛び出します。

その言葉通り「女性も愛せること」に気づいても、そのことを隠そうと思ったことはありません。

一方、パートナーの福ちゃんは「愛する人が女性であること」を公にカミングアウトしたのは、今回が初めてです。


2人は、共に暮らして今年で10年になる女性同士のカップルです。
お互いの凸凹がぴったりハマったような2人の願いは、「カミングアウトが必要なくなる日が来ること」です。



Q1. OUT IN JAPANに参加したきっかけを教えてください
 

 智美さんに、参加へのためらいは、ありませんでしたが、福ちゃんは、違いました。

脱サラして、去年4月に実家で自営業を始めたばかり。はじめはあえて「レズビアン」であることや、女性と暮らしていることを公表する必要も、特にそうしたいとも思わなかったそうです。実際、家族からは、「今その必要は、ない」と反対もされました。

 そんな福ちゃんの背中を押したのは、やはり、智美さんでした。


「検索で見つけられるのは嫌だったけれど、検索する人は、関心がある人。関心のある人は、理解する準備のある人だと思う」と智美さん。そこには、「福ちゃんの中で、一区切りがついたらいいな」という愛情が込められていました。






Q2. 今回、カミングアウト(撮影会に参加)してよかったと思うことは何ですか

「結婚式やパーティもしていないから、結婚写真の代わりになった」と智美さん。

「プロの写真家に撮ってもらう機会なんてなかなかないから」と福ちゃん。

世界的な写真家、レスリー・キー氏の写真が、2人がパートナーである証になりました。

「地方にも、こういうカップルがいるよ、と言えたのが良かった」と智美さんはしみじみ言います。

2人の関係は、お互いの家族からも認めてもらってはいますが、結婚式やパーティもしていませんし、公的に2人を「パートナー」と認める制度もありません。今でも親戚が集まる場所で、公的な名前がない関係です。

堂々とパートナーだと言えないということは「いない人」とみなされることも多く、そこに寂しさを感じずにはいられないそうです。


2人とも、仰々しく「カミングアウト」する ことは、本望ではありません。

でも、OUT IN JAPAN などを機にカミングアウトすることは、誰もが、あえてカミングアウトを必要としなくなる世界が実現するまでの「下駄を履かせる期間」と捉えています。2人のアクションが、いずれは同性同士の結婚や、マイノリティといわれるセクシュアリティが特別視されない日の到来に繋がることを願っています。


「世の中に認知され、理解を深めるために、ブームがあるならいい。制度を変える原動力としてのブームは必要だから」

と福ちゃんが言うと、智美さんが、こう言いました。


「制度が変わっても、差別が消える訳じゃない。感覚として“LGBTQが当たり前”と言うのが、一般に浸透するのと、制度ができるのとどっちが先かは、わからないけれど、単なる制度整備ではなく、それと共に、差別がなくなるといい。私たちが死ぬまでには、「カミングアウト」そのものが、必要ない世の中になってくれているかな?カミングアウトは、挑戦状でもなければ、絶縁状でもなく、大切な誰かと未来のことを真剣に考えたいと言うメッセージだと思うから」





Q3. 今まで言われたり、されたりして困ったことや、改善してほしいと思うことはありますか?(制度についてでもOK

福ちゃんは、学生時代、「女の子が好き」と言う噂が立ち、
友達の1人が「気持ち悪いって思われているよ」と伝えてきたそうです。

「同性を好きなことが、人を嫌う理由になると思い知らされてショックだった」
と言う福ちゃん。

それを聞いた智美さんは、間髪入れずこう言いました。

「気持ち悪いと思われること自体は仕方ない。女子が好きだと言うのを理由にしないで、あなたが嫌いだと言ってくれた方がまだ理解できる。そこにセクシュアリティは、関係ないんだから」と。


智美さんは、これまで直接的に嫌な思いをしたことはないと言います。

それでも、あえてセクシュアリティでカテゴライズすることに、疑問を持っています。

“バイセクシュアル”や“レズビアン”の◯◯さんと、カテゴライズすることで、それが自分の名前になってしまうような気がして、なるべく「女性と暮らしている」という言い方でふたりの関係を説明するようにしています。智美さんにとっては、セクシュアリティは、事実でしかなく、誇りに思ったり、卑下したりする特別なことではないと言います。


「インタビューや取材を受けると、悲劇性やそれを乗り越えて頑張っているエピソードを求められるが、私にとっては、普通のことだから、悩んで乗り越えたことが美談になるのは、違うと思う。皆さんと同じような恋愛をしているだけだから」


今はふたりの関係を特に隠そうとは思ってないということですが、いまだに「知られたくない」と感じる人はいるそうです。

あえて、「女性と暮らしている」と言うことで、揶揄されたり、侮られたりする可能性があるなら、積極的には、口には出さないそうです。
誰に話しても「そうなんだ」と軽く流してもらえる日が来ることを、願っています。

Q4. どんな人といるとき、また、どんな環境だと、自分らしくいられると感じますか?

2人の出会いは、プラウド香川(※2)でした。
智美さんは、当事者として早くからプラウド香川に参加していました。
一方、福ちゃんは、レズビアンや様々なセクシュアリティの人たちの人間模様を描いた米国ドラマ「Lの世界」(2004年)を見て、30歳の時に、やっと「レズビアン」であることを受け入れることができ、プラウド香川を訪れました。
出会った頃は、お互いに別に好きな人がいましたが、福ちゃんが智美さんに恋愛相談を持ちかけたことをきっかけに急接近。智美さんからの積極的アプローチにより付き合いはじめ、すぐに一緒に暮らしはじめました。

それから10年、今では香川で出会った中では、一番長く一緒にいる女性カップルになりました。
「世間で認知されて、有名になった女性カップルは、破局報道が多い。地元でも長く付き合っているカップルがなかなかいない。誰かのためにという訳じゃないけれど、だからこそ、私たちは、ずっと一緒に続けたいと思っている」
と、智美さん。
10年間、連れ添い、「飽きること」がないそうです。(うらやましい!)
最近の2人は、福ちゃんの始めた新規ビジネスに智美さんが手を貸す形で、忙しい毎日を送っています。
福ちゃんが商品を作り、ネーミングは、2人で考え、智美さんが、デザインして世に送り出します。
商品の品質を追求し続ける福ちゃんと、その思いを受け取りデザインする智美さん。今、商いが2人にとっての子供のような存在です。




商品を作る福ちゃんと、そのコンセプトを磨き上げデザインして完成させる智美さん。

2人は、一緒になるべくして一緒になったんだろうなと、思わざるを得ないほど、お互いがお互いを補い合い、高め合っているのがよくわかります。それも、無理なく、自然に。

「お互いがお互いを思いやる」そんな当たり前な姿に、特別な感情や、ドラマ性を感じないで欲しいと言われたものの、同じ人として、そんな心地の良い家族愛を賞賛してしまう自分がいます。

自分のことは、自分自身ではよく見えなかったり、わからなかったりすることもありますが、智美さんと福ちゃんは、そんな自分の代わりに、相手のことを思いやり、理解し、代弁してくれます。この関係を「婚姻」関係以外に何と呼べばいいのでしょうか?

自分の尺度で決め付けることなく、身近な誰かを、尊重し、思いやることができれば、2人のようなカップルが、公に「パートナー」と言える日は、遠くないはずです。


※1 OUT IN JAPAN…日本のLGBTをはじめとするセクシュアル・マイノリティにスポットライトをあて、市井の人々を含む多彩なポートレートを様々なフォトグラファーが撮影し、5年間で10,000人のギャラリーを目指すプロジェクトです。

※2 プラウド香川…性の多様性を尊重する社会作りを目指し、1995年に発足したLGBTQに関する活動を行なっている非営利団体